ファイナンスの役割
銀行業務のうち、ファイナンスと呼ばれる与信行為とは大きく以下の3つの種類があると思います。また、これらの要素が同時にはいっている業務もあります。
1、契約や資産・商品のマネタイズ
2、将来の事業キャッシュフローをマネタイズ
3、資金の出入りの時間差を埋める
ファイナンスはモノの移動や時間の短縮を実現することができるツールとも言える。
例えば、貿易金融は、自社が生産した商品の輸出代金を先方が支払う前に銀行から払ってもらう仕組みであり、その場合はインボイスに基づき、商品を担保として資金を前倒しで受け取れることになります(1と3の要素)。
LBO(Leveraged Buyout)では買収対象企業が将来産み出すキャッシュフローを担保として買収資金を借りるやり方(主に2該当)であり、 プロジェクトファイナンスでは生産したモノの売買契約やリース契約を何もない時点でマネタイズすることができます(主に2)。
また、事業の運転資金は主に仕入れと販売代金の入金のタイミングが異なることから資金が必要となり、個人向けのカードローンや消費者金融や住宅ローンは支出と給料日の入金の時差があるが故に発生する必要資金です(主に3)。
最近の銀行不要論を始めとする議論ではATMの不要論や決済系アプリの利便性ばかりが注目されていますが、それは決済機能や送金に限定していることが多いとの印象です。
上記の業務(特に1と2に関する業務)はリスクをとる上で専門的な知識やノウハウが求められる業務であることから、決済業務運営会社などに代替される可能性が低い業務も多いです。
ファイナンスという与信行為の大半は資金を調達する必要あり、その為にも預金顧客にとって銀行の決済や送金の使い易さは大事だと思います。ただ、だからといって銀行自体が不要になるというのは議論の飛躍があると思います。仮に銀行が口座を使われず、送金を担わなくなったとしても、専門的なノウハウに基づいたリスクをとる与信行為は無くならならずそれに対する対価は支払われるからです。
上記で述べた貿易金融やプロジェクトファイナンスや消費者金融では最近様々な変化があります。
貿易金融のデメリットは書類が多く事務が煩雑なことです。僕も輸出手形の買取などの業務に携わっていましたが本当に面倒でした。最近では書類の電子化だけではなく、ブロックチェーンと使った貿易信用状の管理などの取り組みも増えてきています(記事1)。これにより管理業務が効率化され貿易金融業務に多い不整合やミスも少なり採算性の向上が期待できます。また、昨今のESGで求められているサプライチェーンの管理も容易になると思います。
消費者金融やマイクロファイナンスの分野ではAIや機械学習の活用が容易になり審査の精度も上がってきていますし、これまで融資が難しかった途上国の個人などにもファイナンスが行われています。例えばアフリカの農村などでは携帯や電気料金などの支払い状況の実績などのデータを基に小口融資が行われています。更にこのような各自の支払い実績などを個人が分散型IDで管理できる様になればより個人が融資が受けやすくなると考えられているので、そういう分野でも様々な試みが進んでいます。この分野については伝統的な銀行ではなくそれ以外の業者もより容易に参入できる分野かもしれません。
プロジェクトファイナンスやストラクチャードファイナンスと呼ばれる大型のプロジェクトをファイナンスする業務における最近のトレンドについては、資金の使途を環境保全や改善に限定するグリーンファイナンスの分野への注力が顕著です。例えば、国際再生エネルギー機関によると昨年の建設された発電所の8割以上が再生可能エネルギーでありこの分野でのファイナンスも増えています。日本でも洋上風力発電の分野が注目を浴びています。
また、近年はプロジェクトファイナンス案件の組成とファンディング(資金調達)の分業がみられ、投資銀行は主に案件を見つけて組成することに専念し、それをセカンダリーマーケットで年金基金などの機関投資家に売却するという動きが顕著になってきています。こういう動きは、銀行が益々専門性のある分野へ特化していくことが求められている一つの例だと思います。
リスクテイクについての最先端の手法や業務の選択と集中が金融を進化させ、より効率的に不可能な事業を可能にしたり、その結果、時空を超えて人々の暮らしをより良いものにすることができると感じています。
銀行不要論については、銀行が不要だとか銀行員が不要という表面的な議論ではなく業務を一つ一つ見てその将来性や必要性を判断する必要があると思います。