ベーシックインカムは、貧困対策の一環としてこれまで何度も実験が行われてきましたが最近は総じて良好な結果が得られています。
古くは、ニクソン大統領が米国で1970年代に導入を試みるも失敗した経緯がありますが、その後は住居を無償提供をしてホームレスの減少と財務負担の減少を成し遂げた好事例につながっています。最近の米国で実施された毎月5百ドルを2年間支給する実験では、対象者のフルタイム労働の割合が大幅に増加した一方でタバコや酒類の購入に使われた割合は1%未満という結果も得られています (記事1)
ベーシックインカムはフィンランドなどでも試されていますが、対象者は気持ちが前向きになり社会参加する様になったとの結果が出ていますし(記事2)、ケニアなどでの実験でもベーシックインカムが労働意欲を下げたり浪費を促すことにはつながらず、餓えや病人が減少してメンタル面も改善したとの結果が得られています。それ以外にも様々な国でベーシックインカムの効果が報告されていますが生活水準とメンタル面の改善をもたらし、浪費や怠惰にはつながっていないとするものが大半です。
よってベーシックインカムを推奨する実験結果は出てきているのですが、次に問題となるのは財源です。実験の段階では限られた人々が対象ですが、国民全体に広げると財源が問題となってきます。財源を考える際に注意する必要があるのがベーシックインカムに必要な費用が純増となるわけではない点です。ブレグマン氏などが著書「隷属なき道」でも指摘している通り、ベーシックインカムを導入した場合には生活保護や特定の人のみを対象としている給付金などやホームレスの対策費用やその他の事務関連費用などの福祉関係費用が減少することから、費用削減分も財源となることです。また、ベーシックインカムをきっかけに就労者が増えれば税収も増える筈です。
但し、当然、財源としてはこれだけでは足りないので普通に考えると富裕層に対する課税が考えられるますが、これには抵抗する人も多く政治的に導入は難しい国も多いでしょう。(国際連帯税や金融取引税についても一枚岩ではない状況です)
一方で、新型コロナウイルスの影響などで経済格差の更なる拡大が懸念される中、世界の富豪83人が、各国の政府に対して自分たちのような富裕層に大幅に増税するよう求めるという動きもありました(記事3)。また、ギビングプレッジという亡くなる際に財産の半分を寄付するという運動も一部の富裕層の中で広がっていて、ビルゲイツ、ウォーレンバフェット、ベゾス等が参加を表明しています(記事4)。TwitterのCEOのジャック・ドーシー氏などはベーシックインカムを実現するためにMayors for a Guaranteed Income(MGI)に寄付するなど、ベーシックインカムを目的に寄付をする富裕者層も出てきています。
資本主義は格差を生んだと言われますが、その一方で使い切れない資産を保有し、また社会へのコミットメントも表明している彼らの様な極端な超富裕層も同時に生み出しています。課税という手段で富裕層から幅広く徴税することも考えられる一方で、政治的な難しさがあるのであればこの様な超富裕層の個々人が自主的に決められるギビングプレッジなどの制度の普及を組織立って行うことも大きな財源となるでしょう。
当然ベーシックインカムだけで全てが解決するわけではなく、学校、病院、交通、エネルギーなどのインフラや公共サービスなども必要であり、そういった分野での投資などは引き続き必要となります。ただ、一国の経済の活力の源泉が各人の「やる気」なのであれば、冒頭に書いた様にメンタル面の改善をもたらし将来に希望を持てるようにする力を持つベーシックインカムはその金額以上のリターンをもたらす人への「投資」だと思います。全員が最低限のスタートラインに立てることが重要です。また、その財源としては拡大した格差を何らかの形で逆手に取って社会還元を促すことが考えられるのではないかと思っています。